2日間で226km!岩屋山-大佐山アウト&リターンへの挑戦レポート

日本のクロカンは新しいステージへ…!

4月13~14日の週末。全国的に天候に恵まれ各地で好フライトが達成されたが、中でも岩屋-大佐の2つのエリア間のアウト&リターンへの挑戦は、日本のクロスカントリーフライトが新たなステージへと到達するのを感じさせるものだった。

今回はこの大冒険を計画した、岩屋のロールアウトをホームとする山下敦子さんのレポートを紹介しよう。

赤線が往路の岩屋→大佐の142km、黄色線が復路の大佐からの84km。

2日間のフライト合計距離は何と226km! 日本でこのような大冒険が可能なのかと驚く方も多いだろう。
行き当たりばったりで達成できるものではないのはもちろんのこと、地域社会への影響を考えると、空を飛ぶ技術や知識があったとしても綿密なリサーチと準備なくしては挑戦して良いものでもないことは、最初にお伝えしておきたい。

つまり、くれぐれも軽々しく真似しないように!

岩屋山-大佐山アウト&リターンへの挑戦

Report & Photo: 山下敦子(使用機材:オゾン・エンツォ3、ジン・ジェニーレース5)
レポートに登場する岩屋の仲間
コパ様:小林大晃。男らしく武士のような飛び、ナウシカの「ユパ様」から命名。
  オゾン・エンツォ3、サブマリン使用。
署長:岩﨑拓夫。アジア大会金メダルの立役者。地元の一日署長を務めたフライヤーはきっと彼だけ。
  ニビューク・アイスピークXone、オゾン・サブマリン使用。
モリケン:森田賢。この男を見逃すな、コンペに出なくなっても相変わらず上手い。
  オゾン・ゼノ2、ウッディバレー・XR7使用。

準備編

月曜から予報とのにらめっこは始まっていました。というのも、天気の周期的に、次の週末はかなり良いクロカン条件が予想できたから。このチャンスを最大限活かすには、どのエリアからスタートするのが良いのか? 少し雲が出てみたり、予報が微妙に変化するたびに、足尾? 岩屋? と悩みに悩みました。

水曜には「やはりホームエリアの記録的フライトチャンスを逃してはならない」と決断できる予報に落ち着きつつありました。ちょうどこの週末にnasa足尾山エリアで開催されるハング&パラのクロカンイベント「どじがらす」はnasaメンバー限定で、自分は参加資格がなく、自由な選択ができることが逆にありがたく感じられたのでした。

7年前にも岩屋から岡山へのクロカンに挑戦しましたが、その時は岡山には入ったものの津山盆地は越えられず、直線で97km地点まで飛んで降りていました。けれど、その後グライダーは進化し、腕も上がったはず。イメージもできていました。予報がほぼ定まった木曜には、大佐ゴールへの挑戦を仲間うちに宣言して、参加者を募り、土曜日の往路は10名前後でチャレンジすることになりました。

それにしても、岩屋から大佐は遠い。次の日は岩屋北西側の条件が良さそうで、帰って日曜は岩屋で飛ぶのがベストですが、遠くて移動が大変そう。ではいっそ、大佐から飛んで帰るのはどうだろう?
予報的には厳しいながら、可能性はゼロではありません。こんな予報はもうパラ人生でないかもしれず、挑戦したくなり、もうソワソワ。遠いからこそ思いついた、我ながらヤンチャな企みでした。

決めたからには、お泊りグッズを準備しなくては。どこで泊まれるか泊まれないかもわかりませんでしたが、限られたスペースで持てるタオル、歯ブラシ、充電器、そして2日かけたアウト&リターンの覚悟を示すアイテムとしてパンツを入れました。

冒険の準備はまだまだあります。想定ルート上の那岐山には制限空域があります。そこで管理する自衛隊に連絡してみたところ、土曜日から1000人体制で演習場の整備があり、ヘリも飛んでくるから飛ばないでとのこと。つまり、自衛隊からのNOTAM発出、制限空域は避けて飛ぶしかありません。

そして大佐エリアイントラの佐々木さんはじめ、岡山の方々にもご挨拶。大佐に飛びに行くかもしれないこと、土曜には空で出会えるかもしれないことを伝えました。なぜか言葉にすると達成できなそうな気がして、「飛んで行く」とは言えませんでしたが。

さて、これで準備万端かな。

4月13日 土曜日 岩屋→大佐

4月13日の天気図。いい位置の高気圧。東日本が北東風をブロックして西日本にコンバージェンスを形成していました。

車の鍵をロールアウトに預け、回収は要らない前提でテイクオフに上がると、お昼からしっかりした風になるはずがなかなか入らず、出にくい状況でした。
予定では5時間+予備時間30分のフライト。11時には岩屋を出発したかったのに…! と焦りますが、風は回っていて、心落ち着かせて機を狙います。

何とか11時過ぎにテイクオフし、するする上げて発射。いつ出られるかわからない状況で後続を待っていられず、高層が少し覆う中、先行の2機を追いかけると、千ヶ峰手前でそのうちの1人モリケンと合流。フライトスタイルも似ているので飛びやすく、しばらく一緒に進みました。

モリケンとバディ楽しかった!ありがとーねー!

途中気まずい時間帯もありましたが、ほぼスタックせず進みます。積雲はできないものの、コンバージェンスの筋状の雲や、霞のようなパフと陽の温かさが導いてくれました。

津山盆地到着の頃、低めを飛んでいた私。どこかに上げのサインはないものかと見回すと、南に高いパラ発見! 岡山の人やーん!!
想定よりやや遅めでしたが、津山盆地東で会えるのではと思っていました。不思議なもので、1機見つかると次々と見えてきて、すぐ近くに2機のガーグル発見!

けれどこの辺りはこの日一番の強烈なサーマルで、喜んでいられません。必死に上げて、待ってくれている皆さんと合流。
幸いサーマルトップは激しくなく、落ち着いた頃に大佐の佐々木さんとブンブン手を振り合います。

実は挨拶した時に伝えたかった、でも伝えられなかった言葉が口に出てきました。

「今日泊めてくださ~いっ! 泊めて~!!」

嬉しくて嬉しくて、もう自由な鳥の気分!
後で聞いたら声は届かなかったそうですが、佐々木さんは西に向き直り我々を先導してくれる様子。え、いいんですかー!?

佐々木さんありがとうございました!! O&R日本記録かも。大佐はO&Rに向いている印象です。

しばらく引っ張ってもらい、緩いリフトを離脱してもうひと上げすべく西の山に突っ込みます。ちなみにこの頃モリケンはすでに回収されていて、佐々木さんと私の2人で夕方のボーナスタイムに突入です。

気持ち良く上がるなぁ~とくるくる回すと、上がりすぎて不安になるほどの上がりっぷりで、2700m近くまで。上がりすぎて、下見えませんけど…?
幸い近くに佐々木さんがいるのでさほど怖くならずに済み、佐々木さんにまた地声と手で質問を投げます。大佐? 北房? どこに戻るのですかー?

どうやら大佐を指しているようで、大佐へ22kmのファイナルグライド。陽は逆転層で眩しく反射し、その下は陰となり暗く、よく見えないのでドキドキです。

ビッグシリンダーにしていた大佐ゴールを小さく修正してみたところ、到達予想高度はプラス450m。ランディングには十分な高度ですが手前の山を越えられるわからず、その時々のエスケープを見つけながら進んでいくと、難なく大佐に出られました。

ホントに来られた~!!!!!

降りるとパラやハングのフライヤーが続々とやってきて声をかけてくれます。佐々木さんもとても嬉しそうに
「本物だよね? 楽しかったね~!」と喜んでくれました。

本当に来られた!大佐のランディングで、喜びの記念写真。

グライダーをパックしたその足で、夢だったしんちゃんの大和(世界選出場経験もある元コンペパイロット植田真吾さんのお店「らーめん大和」)へ! 大佐には時々飛びに行くものの、基本的にクロカン狙いなのでいつもお店は開店前。お邪魔する機会がなかなか作れず、いつか飛んできたいと思っていたのです。

後から飛んできたコパ様には、「私達は畳み終わって大和行くから、大和に降りてね」と無線を入れておきます。140km以上飛んだ先でのやり取りとしてはあまりに不似合いな「ちょっとそこまで感」に笑いがこみ上げてしまいます。
コパ様と一緒に飛んでいた署長はファイナル手前で少し低く、大佐手前の深い山々を回避して南の北房エリアにランディング。どうやって移動するのか危惧していたところ、「突撃!隣の晩ごはん」の如く大和までのヒッチハイクに成功させるミラクル!(爆)

大佐の皆さんはこんなヤンチャをしている我々を受け入れてくださり、ショップのお世話になることとなりました。皆さんとのお喋りとビールが進みます。しんちゃんは相変わらず面白くて、引退してなお研究に余念がありません。お肉は美味しく、とにかく楽しい。車はなく、明日は岩屋まで飛ぶしかないという崖っぷちな状況も笑うしかありません。
夜まで話は尽きませんでしたが、しっかり睡眠を取れて、朝もゆっくりでき、とにかく感謝感謝でした。

しんちゃんの「らーめん大和」での楽しすぎる夜!

署長(前列左から2番目)、コパ様(前列右)、そして大佐の皆さんたちと。

4月14日 日曜日 大佐→岩屋

4月14日の天気図。どっぷり〜後面…。

予報は変わらず、厳しいまま。昨日大佐に到達した署長、コパ様と想定していたルートを共有しますが、初めてのルートかつ難しそうで緊張感が漂います。細かくルートを相談し、11時頃テイクオフすると、大佐は爆発中。
怖いリフトで我慢の旋回を続け、1900mオーバーで署長を待てずにすぐ発射しました。

この後、真っすぐ真庭に向かったのが選択ミスでした。
途中は激渋、たまにあるリフトは荒れまくりで翼がビョンビョンしなりっぱなし。こんなので大丈夫?

真庭に出るとサーマル中頃の荒れ方は緩むものの上がりは悪く、1200m付近のサーマルトップはまた荒れ荒れ。しまった、発射が早かった。高気圧どっぷりになったか…、逆転層がキツイ。

出てきたものは仕方ないので進みますが、真庭で降りそうに。なぜ上がらないのかわからない尾根があったり、でも荒れてたり。それでも何とかグラウンドサーマルを引っ掛け、対地160mから上昇。
しっかり高度回復して山に進むと、何とも南側が温かそう。そこで南にシフトすると条件が好転。

普通の山や谷がフラットに繋がる印象でしたが、高低差のせいか谷の繋がり方のせいか、上がる条件が整う早さが違う様子。南の方がだいぶ早そうです。

ここまでに運命共同体の署長、コパ様共に降りてしまっていて、彼らは南回りで遠路を帰らなければなりません。ブレークが遅いのもあり、私もルート変更して南回り帰りを想定して飛ぶことに。

すると、南に先を飛ぶ大佐の山崎さん発見! 元気を回復し、津山盆地初めての南からの東行にトライです。ここは条件ができていて、多くはないもののドカーンと上げがあり、2人で一緒に進んでいきます。

ここまでに結構時間を使ったので急ぎつつ飛びますが、やはり津山盆地東の最後に強烈な上げと遭遇。
何とか乗り切り、山崎さんには予定通りにここで見送ってもらいました。ありがとうございました!

美作に入り、たまに出ていた雲のかけらの方向に向かいますが、雰囲気が激変。アーベントな夕方を感じます。もう少し北に攻めれば上がるかもしれませんが、そもそもこの先には可能性が少ない予報で、帰りを考えると攻めきれません。

電車沿いに東に進むと、いよいよアーベント到来。トンビがたくさんで楽しそうに上昇気流と戯れています。大きめの町が眼下に見え、ここ(兵庫県佐用郡)に降りるのが良さそうだけど、また1つ上げられれば宍粟まで飛んでいけるかも?

トンビの群れにお邪魔すると、珍しいのか首を捻りながら後ろからガン見されます。「怪しい者ではごさいませーん!」と気を発するとどうやらわかってくれたようで、みんなで一緒に飛んでくれることに。翼端流も使ったり好奇心旺盛で可愛い。少し上げて隣の小山にグライドしてみると、一緒に渡ってくれるではありませんか! 嬉しい、楽しい!

…と思ったのも束の間、これ以上は距離を伸ばせず、トンビともお別れして近くにランディング。厳しい中で80kmは飛んでいるのにだいぶ足りないという不思議な感覚でした。

パッキングを済ませ連絡確認すると、どうやら一緒に挑んだ2人は眼下に見た佐用駅で乗り換え待ちとか。なんとヒッチハイクすれば15分後には合流できそうです!

早速ヒッチハイクを始めましたが、なかなか止まってもらえません。もしかして、眉毛がないから…? メイク道具はお泊りグッズに入れていなかったのです。しまった~眉毛なんてペンぐらい小さいのに…。

ヒッチハイクが成功しない…。

結局は仲間が遥々回収に来てくれて、おかげで暗くなる前にロールアウトに帰着できました。自力で帰る方法を検索したところ、翌日のバスに乗って6時間と出てきて青ざめていたところでした。本当に感謝です。

改めて、空の仲間たちがいなければこんな素晴らしいチャレンジはできませんでした。岩屋の仲間たち、大佐の皆さんにも本当に感謝しています。
遠く飛んだ先で鳥のように会えるなんて! 大事な空の仲間の刺激になれるような楽しい企画をこれからも思いつき挑戦していきたいと感じた、とても幸せな週末でした。
本当にありがとうございました!!

関連リンク

山下敦子さんの今回のフライトのショート動画はこちら
4月13日のフライトログ
4月14日のフライトログ

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