10月にトルコで開催された第13回アキュラシー世界選手権の開会式にて、日本代表チームで記念撮影。右から橋本みさ紀、岡芳樹(チームリーダー兼任)、1名飛ばして古田岳史、河本勇吉、花田瞬(敬称略)。
第2回
テストパイロットの仕事とは?

皆さん、お久しぶりです。テストパイロットの花田瞬です。
2ヶ月ぶりになりますが、お元気ですか?
まずは近況報告を…
10月、トルコのアンタルヤで開催されたアキュラシー世界選手権に参加しました。韓国にいた時の友達や世界中の友達にも会い、良い時間を過ごせました。
競技では1位を目指して0cmを狙っていましたが、後半大きく崩れてしまい、19位という結果で終わってしまいました。でも何が決定的な違いかも理解しましたので、次の大会までしっかり調整して、次回は優勝できるように頑張ります。

トルコの空。
12ラウンド中、0cmは3回。19位は今回日本人選手最高位だった。
11月に入ってからのフランスは、朝夜は寒いものの日中は暖かく、ほぼ毎日テストフライトしていました。冬は良いコンディションの時間が短いながらも、たくさんのテストができるのでかなり充実しています。
現在多くのプロジェクトが同時進行中で、1つひとつ終わらせられるように頑張っています。
その後、プロトタイプ作成などの仕事のために工場があるスリランカに行きました。暖かいのはいいのですが、雨季のため期待していたほどは飛べませんでしたが、美味しいカレーを沢山食べて頑張りました。
テストパイロットって具体的に何をしているの?
さて、今回はテストパイロットの仕事についてご紹介したいと思います。
というのも、テストパイロットをやっていると言うと「そんな危ない仕事を…」と言われることがよくあるのです。危ないプロト機に乗って、危ないことをしているというイメージを持っている方が多いのでしょう。
実際のところは、半分正解で半分不正解、という感じでしょうか。基本的に、認証前のグライダーに乗ってテストフライトし、修正してまたテストフライトをしてレポートするのが僕の仕事です。
ちなみに一口にテストフライトと言いますが、大きく3つの種類に分けられます。それが、グライドテスト、EN認証試験用のテスト、そしてジェネラルテストです。
グライドテスト
グライドテストというのは、プロープという機械を付けてグライダーのパフォーマンスのデータを取ったり、過去のモデルや理想とするグライダーをサイドバイサイドでフライトし、どっちのグライダーの方が速い? 性能が良い? というのをトリムスピードからフルスピードまでテストするもので、さまざまなコンディションでデータを取ります。
サイドバイサイドでのグライドテストの様子。
EN認証試験用のテスト
EN認証試験用のテストというのが、皆さんが一般的にイメージしているテストではないでしょうか。
コラップスやストールなどを自分で起こして、何もせずにグライダーの回復傾向を見るテストです。
EN認証についてはまたいつか詳しく説明しますが、A、B、C、D、CCC認証のどれにアプローチするかをあらかじめ考えデザインし、全ての認証テストをパスする必要があります。
ジェネラルテスト
ジェネラルテストというのは、グライダーの乗り味を決める味付けのようなパートです。
ラインの長さを調整してキレの良い旋回にしたり、グライダーの速度を上げたり下げたりして、乗りやすくグライダーのコンセプトに合わせていきます。
3種類のテストのうち、どれがメインか?と問われると、基本的に全部というのが正解ですが、メーカーによって優先度が違ったりします。
これらすべてのテストは、基本的に1つのプロトタイプですべて修正していくことが可能です。
ですが、もしどれだけ変更してもうまくいかない場合は、新しいプロトタイプをデザインし、満足いくまでテストし続けるのです。
最近はグライダーデザインの勉強を始めているのですが、問題や特性のそれぞれに修正方法が数多くあると知ることで、パラグライダーの可能性を感じ世界が広がっているとともに、ほんの少しの変更で大幅に変わる難しさも心底感じています。
スパイラル特性の調整方法
スパイラルは、数あるEN認証テストの項目の中でもパスするのが難しい項目の1つです。
スパイラル認証の回復は、いくつかの段階に分かれています。
あまり詳しく書くとPARA TESTに怒られちゃうので簡単に説明しますと、5秒で導入してブレークを固定したまま2周回し、ゆっくりとブレークをバンザイに戻して回復を待ちます。
この時、手を挙げて旋回速度が落ちるかどうかでまず、AかDに分かれます。そしてそこから何周で回復するかによって、AからCの認証が決まります。
止まらず回り続け、パイロットが回復動作を行うグライダーはDクラスとなります。
この方法でスパイラルを行うとかなりのスパイラルダイブになり、パイロットには相当のGがかかります。僕も初めは手が少し戻ってしまい、EN用のテストができなかったことがあります。
僕は基本的にテストの際にバリオはつけませんが、一度試しにつけてみたところ、マイナス20m/s以上の沈下をしていました。

タンデム機でのスパイラルのテスト。
そのくらい結構ハードなテストなのですが、回復してくれないことがあります。原因はグライダーによってさまざまで、修正方法は無限にありますが、今回はわかりやすい方法を2つ簡単に紹介します。
1つは、今流行りのウイングレットです。昔のウイングレットはスタビあたりについていましたが、最近は3rdレンジ(よく翼端折りラインがあるあたり)についてるグライダーがありますよね。
ウイングレットは基本的に抵抗です。スパイラルからの自動回復を助けると同時に、グライダーの性能自体は落ちてしまいます。
Dクラス以上の超高性能なグライダーコンペグライダーについていない理由は、パイロットの回復動作が許されているから。ですがCクラスまでのグライダーは自動回復が必要なので、ウイングレットなのです。最近のCクラス2ライナーの流行りは、ハイアークにウイングレット付きです。

BGDの最新2ライナーCクラス機キュア3も、ウイングレットを備えたハイアークモデルだ。
もう1つは、アークの開放です。さっきの逆で、グライダーをフラットにします。すると旋回中に傾いたグライダーが水平に戻ろうとする力が出て、回復しやすくなることがあります。
この効果は大きく、ライン約10mmの変更だけで、グライダーが回復したり、スパイラルにステイインしたりします。
スパイラルで、レスキューを投げてほしい場合
僕はインストラクターではないので、操作についてなどはインストラクターさんに習ってくださいね。
ただし、ここまで説明した内容を踏まえて1つ注意してほしいことがあります。それが、レスキューを投げてほしいタイミングがある、ということ。
グライダーがコラップスしたりストールしたりした時、コントロールしないと、スパイラルが始まってしまうことがあります。その時、基本的にはスパイラルの回復と同じ回復方法をすれば良いのですが、グライダーがツイストしてしまっていて、コントロールがしにくくなっている場合は早めにレスキューを投げてください。
ツイストした場合、スパイラルは止まらないと思って良いと思います。
体の向きが変わってGの感じ方も違ってきますし、ラインが捻れてコントロールできなくなってしまうのはもちろんで、ツイストすればするほどできることが少なっていきます。
ですがテストパロット的に気になるのはもう1つの方、つまりグライダーのアークが強くなっていくことです。するとグライダーは加速しやすくなり、Gを感じる速度も早くなっていきます。すると、ツイストしていない時に比べコントロールはしにくく、Gは強くなり、スパイラルは止まりにくく、体もどんどん重くなっていきます。
そうなると本当に大きな事故になってしまいます。
こういう事故はどのような条件下でも起きかねないと思います。
回復のしやすさは別にすると、こうなってしまった場合は認証のクラスなど関係はなく、コントロールなしでは回復することはないと思っています。
おわりに
インストラクターではないので操作の指導などはできませんが、グライダーのいろんなことを試し続けているテストパイロットとして、自分の中で大切にしている1つの基準を紹介しました。
気になることなどありましたら、ぜひご質問ください。順番に答えていきたいと思います。
現在は日本に一時帰国中で、12月は13~14日に紀の川フライトパークで開催されるバリバリ試乗会に参加します。フィールドジョイブースにいますので、ぜひお越しくださいませ。皆さんにお会いできるのを楽しみにしています。
それでは皆さん、ちょっと気が早いですが、どうぞよいお年を!