パラグライダーで「天空茶会」、実現までの道のりをレポート!

「天空茶会」オフィシャル動画公開!
その実現までの道のりとは?

静岡県島田市にて、「UNMANNED無人駅の芸術祭/大井川2024」が、2月10日~3月17日の約5週間にわたって開催されている。

大井川鉄道の無人駅と、そこから広がる集落を舞台とした地域芸術祭。UNMANNED(アンマンド)、すなわち”無人”と呼ばれる場所で生きる人々の営み、あたたかさ、大井川が育んできた美しい風景を、19組のアーティストが多彩な作品で表現。アート作品展示のほかにも、会期中はさまざまなパフォーマンスも行われている。

そんな作品の中の1つ、華道家・上野雄次さんの「空中茶会」。すでにSNSで動画を目にした方も少なくないだろう。パラグライダーを使って畳1畳の茶室を空に浮かべ、茶会を開く。この作品のオフィシャル動画が3月1日にYouTubeにアップされた。

この「空中茶会」に全面協力し成功に導いたSkyTECフライングアカデミーの宮田歩校長に、協力にいたった経緯や実現までをレポートしていただいた。

華道家、上野雄次氏は語ります。
「お茶室、千利休の待庵は、入り口も小さく薄暗い2畳の狭い空間で、中に入ることで日常から非日常へと誘う。自然から切り取られ床間に生けられた一輪の花は、明かり取りの窓から差し込む光に呼応し、重力に鮮やかに抗う姿で生けることを求められる、お茶室という非日常空間での、もっとも大切なしつらえであり、象徴でもある。日常の煩わしさから、心と体を解放する世界がお茶室にある」と。

パラグライダーを飛行を極める空道とするならば、茶道、華道と何かと共通項が多いことに気付きます。我々パイロットも日常の煩わしさから解放を求め、太陽光(熱)から得るエネルギーを用い重力に抗い、大空へ舞い上がります。茶道、華道、空道すべてに共通している非日常の世界に没頭できる体験は、出会うべくして融合し、作品「空中茶会」となったのです。

上野氏の情熱と壮大なコンセプトに感化され、SkyTECフライングアカデミーとして茶室デザインから手元撮影とパラグライダー操縦を担当。パイロット宮田は空中の茶道お手前も徹底的に練習し、正当な茶道作法に従い、真剣に挑みました。

お手前確認練習。Photo: SkyTECフライングアカデミー

テイクオフサポートの様子。Photo: SkyTECフライングアカデミー

事前にバランスの確認を入念に行っていたため空中は安定飛行することは分かっていましたが、問題はテイクオフ。スムーズにライズアップ動作ができるかで決まります。こちらも練習斜面でライズアップサポート体制を確認し、本番に臨みました。

気流の変化がある晴れた日中ではこの作品は飛行不可能と判断し、早朝の安定気流で撮影飛行を行いました。当日は適度な東風。華麗なるサポート3人の連携プレーにより、茶室は滑るように鵜山七曲の空へ。大井川上空に到達した安定空域にて、茶人上野氏はお茶を点て、パイロット宮田が作法に従いお茶を嗜む。

宮田校長、空中でお茶を嗜む。Photo: SkyTECフライングアカデミー

狙い通りのシーンを撮影した後、無風のランディングへ補助輪でコロコロ~と無事着陸。多くの関係者の見守る中、無事に芸術祭への作品は完成したのです。

最初は地元島田市の進めるシティプロモーション企画、島田市緑茶化計画に貢献できればと引き受けたものの、華道家上野氏の情熱に感化され、ド真剣にやることとなりました。

毎日漠然と飛んでしまう空の世界を、違う側面からじっくり見ることでき良い経験となりました。芸術祭にて多くの方にこの作品を拝聴していただくことで、パラグライダーの普及に繋がればと思います。

茶道、華道、空道は一期一会。同じ風は2度と吹かない!
1本1本のフライトを安全に楽しむこと。空道は、風流ですな~。

車屋根茶室。この車で東京から高速道路で鵜山七曲まで来る上野氏は凄い。Photo: SkyTECフライングアカデミー

車屋根茶室でお手前練習。Photo: SkyTECフライングアカデミー

SkyTECサポートスタッフと。Photo: SkyTECフライングアカデミー

芸術祭スタッフと集合写真。Photo: SkyTECフライングアカデミー

Profile
上野雄次 Yuji Ueno
花道家/アーティスト
1967年京都生まれ。1988年、便可原宏の前衛的な「いけばな」作品に共鳴し、花道を学び始める。
この37年間、既成の流派のルールにとらわれず、形式や制作場所にとらわれない独自の花道世界観を構築してきた。
野に咲く花を探し、土地の生命力を感じさせる素材を用いて生命の上昇を表現し、また、破壊的で爆発的な創作物を用いて生命の力強い生の状態をトレースしてきた。バリ島や火災跡地などでのレジデンスを経て、世界各地で活動している。近年は、日本各地のアースアートフェスティバルで大規機なインスタレーションを作し、美術館やギャラリーで花道ライブを開催している。また、詩人、写真家、音薬家、工芸家など、さまざまな分野の人々とコラボレーションを行っている(青葉市子、コムアイ、斎藤工、スガダイロー、鶴田真由、中村達地、一青窈、山下洋輔、矢野類子、Arto Lindsay. Jeff Mills、Terry Riley、他)。

関連リンク:UNMANNED 無人駅の芸術祭/大井川

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