9月21日、パル・タカツが自身のSNSに公開書簡をアップした。
アクロパイロットとして、クロカンコンペパイロットとして、そしてX-Alpsアスリートとして多方面で第一人者として活躍し、多くのフォロワーを持つ彼の投稿が、世界中のパイロットの間で話題となっている。
投稿から2日が経過した9月23日夜時点で、彼のFacebookの投稿には2600を超える「いいね」(「超いいね」「大切だね」を含む)が付き、270件に及ぶコメントで議論が交わされているという状況だ。
また、250件ものシェアがされ、シェアされた先でまた活発な意見交換が行われている。
すでにご覧になった方も多いかと思うが、ここに日本語訳したものを改めて掲載させていただこう。
FAI、PWC、そしてすべての競技シーンへの公開書簡
まさか自分がこんなことを言う日が来るとは思ってもいなかったけれど、僕は今、ハイレベルな競技フライトの文化が辿り着いた現状に心底うんざりしています。
ほぼ毎大会のように誰かが亡くなったり重傷を負ったりしているのに、それが「普通」と見なされています。
私たちは「それは誰もが負うべきリスクだから受け入れるべきだ」などと言って、すぐに話題をそらします。主催者は公式声明すら出さず、犠牲者に敬意すら払わない状況にまで至っています。
信頼すべき組織が、地形条件や現地の状況から事故発生リスクが高いと知りながら、あえて我々を危険な場所、例えば僕が棄権した中国での大会のような場所へパイロットたちを連れて行きます。
金と政治が優先され、安全は重要視されません。多くの場合、現場にいるか、または現地に知り合いがいない限り、事故が起きたことすら知らされません。
また、誰かが負傷したと知っていても、詳細を知るには親しい友人に話を聞かなくてはなりません。私立探偵のようなことをしなくては、事実関係を知ることができないのです。
2011年7月6日、ピエドライタで開催された世界選手権は、我々のスポーツにとって非常に暗い日となりました。2人の経験豊富なパイロットがそれぞれ別々の事故で命を落とし、さらに数名がレスキューパラシュートを投げました。FAIは大会を中止しました。これによってオープンクラス(非認証機グライダー)時代が終わり、CCCクラスが誕生しました。これほど抜本的な改革が行われた唯一の時でした。
幸い、その後は同様の事態は起きていませんが、それでもなお、あまりにも多くのパイロットが頻繁に命を落とし続けています。
僕たちは、本当にこれで良いのですか?
そのリスクを背負う覚悟はあるのですか?
それとも「自分には起こらない」と信じ、無知のままでいるのですか?
かつて僕は、情熱のために死ぬのも構わないと思った時期がありました。しかし40歳となり、幾度かの危機を経験した今、そうは思いません。逝く者にとっては容易いことですが、残された者の痛みは耐え難く、それが繰り返されるのです。
僕たちは、また1日2件の死亡事故を目撃して初めて、再び目を覚ますのですか?
いいえ、もっと良い方法があるはずです!
・なぜ、誰も真剣にこのスポーツを安全にする方法について議論しないのでしょうか?
・なぜ、携帯電話ネットワークに依存したトラッカーだけに命を託すのではなく、バックアップとしてGPS衛星トラッカーの所持が義務付けられないのでしょうか?
・なぜ、ハイレベルのイベントに出場するために、CCCグライダーのストール操作に必要な経験を証明する動画の提出が求められないのでしょうか?
そうしない代わりに、私たちは以前と同じように限界に戻り、脊椎骨折のリスクの高い複雑なハーネスで飛び、将来に関するあらゆる会議で性能やスコアリングに関する議論を続けているのです。
解決策は?
上記の課題に加え、ワールドカップやCAT1イベントをスポーツクラス(EN-C)レベルに引き下げることが良い出発点だと提案します。
こんなことを言うと多くの人に嫌われるでしょうし、臆病者と呼ばれるかもしれませんが、僕はまったく気にしません!
CCCグライダーでの競技はしばらく続くでしょう。抵抗は強いでしょうが、皆さん、早急な対策が必要です!
まず1シーズン試してみて、どうなるか見極めてはいかがでしょう? 個人レベルの話し合いではこのアイデアに賛成する人が増えているように感じていますが、そんな人たちもなかなか声を上げられないようです。
CCCグライダーの進化が足踏みする中、EN-Cの性能は、安全性とコントロール性の両面で、そして楽しさも飛躍的に向上し、驚異的なレベルに達しています。もはやCCCで飛ぶ正当な理由は、記録更新や、極限の性能を体験したいといった個人的な楽しみや目標以外には存在しません。
SRSが3シーズン完全実施され、各イベントに120名のパイロットが参加した結果、死亡事故はゼロでした(※編注)。今こそ真剣に考える時です。
私がここで述べているような問題に嫌気がさし、リスクを理由にすでに引退した「レジェンド級パイロット」は数多くいると確信しています。彼らは復帰を望んでいるはずです。
今日、私の友人であり、競技界で非常に尊敬されている人物、フランス代表コーチのジュリアン・ガルシア氏が、この懸念を共有し、競技の安全性を向上させるための抜本的な改革を支持していると知り嬉しく思いました。私が何かを発表するつもりだと伝えたところ、執筆中の書籍の序文の翻訳をここに貼り付けるよう彼に頼まれました。ジュリアン、共有してくれてありがとう。
「序文:事故について
パラグライダー競技は、パラグライダー全般と同様に、死傷事故を伴う。我々は小さなコミュニティであり、毎年多くの仲間が命を落としている。あまりにも多く、悲しみに優先順位はつけられないため、具体的に名前を挙げることはしないが、私は数え切れないほど多くの友人を失くし、わずか数年で連邦パフォーマンスプロジェクトの選手2人を失った。失われた命、崩壊した家族、数えきれないほどのトラウマ、そして夜が訪れると大きな虚無感がやってくる。
数字を並べて統計を語るつもりはないが、我々の活動や国際競技における事故率は良い方向に向かっているとは言えない。このほぼ異論のない現実にもかかわらず、我々のコミュニティは共通の情熱が生み出す事故に対して、比較的無頓着で異常なほど回復力がある。
誰もが自らの道を切り拓き、悲しみを抱えて歩む。愛する人の大半は飛行を続ける道を選ぶが、静かに離れていく者もいる。
安全面では、状況はほとんど変わっていないようだ。かつて私は、パラグライダーの競技フライトは安全なアクティビティだと誰よりも信じていた。むしろ一般的なフライトより安全だとさえ主張してきた。より厳格な枠組みが効果的な保護をもたらすと考えたからだ。しかし今では、私は競技でもレジャーでも、私たちのアクティビティが「安全」だとはもはや信じていない。
この文章を通じて、私たち自身を鏡にまっすぐ映し、見つめ直すように呼びかけたい。まず、この驚くべきコミュニティの回復力の根底にある神話とメカニズムを詳細に説明したい。次に、焦点を競技練習と現在の安全問題に焦点を移す。(以下略)」
最後に、もうこの世にいない友人たちの愛する方々へ、哀悼の意と祈りを捧げます。
コメント欄では、秩序を保った議論をお願いします。
Pál Takáts
※編注
2025年2月にコロンビアで開催されたSRS大会において、1名のパイロットが森林地帯にランディングした後に連絡が取れなくなり、現在まで消息はわかっていない。